体のラインに沿うような、ぴったりとしたシンプルなスーツに身を包んだパクノダは、夕暮れの繁華街をゆっくりと歩いていた。 週末の街を歩く女性は、みな華やかな装いをしているが、パクノダは特に目立つようだ。時折、すれ違う男性からの驚嘆と賛美の視線が向けられるが、見られている本人は気にも留めない。 パクノダの目当ては、白い瀟洒な七階建ての建物だった。 美容室やエステや若い女性に好まれそうなショップの入った建物最上階には、飲食店が数店舗、店を構えている。その最上階の片隅にある、目立たない小さな店。 数人も入れば満席になってしまうような小さな店の前には、少女や若い女性が並んでいた。 看板もなく、ガラスの扉からも室内は良く窺えない。薄く透ける布が幾重のも垂らされ、微かに人影が分かるのみだ。 パクノダは列に並ぶことなく、近くのオープンカフェへと向かった。サンドイッチとホットコーヒーを注文すると、携帯を取り出して時刻を確認する。 「もうすぐね」 時刻は7時30分。 看板のない店に並んでいた少女達は、帰ったようだ。 8時ジャストに最後の客が出たのを見て、パクノダはカフェを出た。 ガラス扉を引くと、閉店時刻を過ぎているせいかひっそりと静まり返っている店内に、軽やかな鈴の音が鳴り響く。 入り口から入ってすぐに背の高い衝立があり、その向こうには重いカーテンが垂れ込めている。奥に人の気配を感じ取り、パクノダは迷わず足を進めた。 絞られた間接照明の灯りの下に、フードを纏った人物が座っていた。ちょうど、パクノダとはテーブルを挟んで差し向かいになる。 営業時間を過ぎて入ってきたパクノダを咎めもせず、店主は口を開いた。 「……いらっしゃいませ。『Depression of the angel』へようこそ」 静まり返った室内に、落ち着いたハスキーヴォイスはゆるりと行き渡った。パクノダは華奢なスツールに腰を下ろす。 長いフードに隠されて、相手の顔は見えない。ゆったりとしたマントを身に纏った向かい合わせの相手が、男なのか女なのかさえ判断するのは難しいだろう。 「本日はどのようなご用件で?」 その問いにパクノダはくすりと笑った。 「貴方はもう知っているでしょう? 」 パクノダは指先で、のフードを押し退ける。フードの下から現れたのは、カフェオレ色の肌にアーモンドアイズを持ち合せたエキゾチックな美貌だった。肩にかかるか長さの髪は、きついウェーブがかかり、ライトに艶々と輝いている。 二十代前半と思しき端整な美貌のは、ゆったりした仕草で首を傾げた。 「分からないわ。教えてくださる?」 細い指先でパクノダはの頬を辿り、ぽってりとふくよかな唇に触れた。 間近で見交わすの瞳は、琥珀色に煌いている。その瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えながら、パクノダは身を寄せた。 「本当に分からない?」 「――ええ」 楽しそうに、悪戯っぽく眼を輝かせて、は言葉を強請る。 神秘的なアーモンドアイズ。占い師として名うてのだが、この瞳を晒せば、今以上に彼女の客は増えるだろう。 (もっとも、そんな事許さないけど) この瞳は容易く他者に見せる気はない。見せびらかしたい気持ちはあるけど、今はまだ、大切に宝箱に仕舞っておきたいのだ。 「貴方に会いに来たのよ」 の望む言葉を囁くと、パクノダはテーブルに手を付いて距離を詰める。 承諾を待たずに、そのぽってりとしたふくよかな唇を、パクノダは盗んだ。 2007/08/06
パクねーさまは男主でやるつもりだったのですが、拍手でリクエスト頂いて嬉しくなって女主に変えました(*^^*) 男主でも設定は占い師のままだったのですが、性格は違います(笑) 次回はフェイタンで、シリーズラストです。 |