「おかえり、シャル」 部屋に入る前に分かっていたが、キッチンに入って彼女が振り返ったときシャルナークは自分がどれだけ乾いているかを自覚した。 一ヶ月と4日ぶりに見る恋人は、ジーンズとTシャツの上に彼女自身が持ってきたのだろうブルーのエプロンを着けて、やわらかく微笑んだ。艶やかなプラチナ・ブロンドを首の後ろで一つに結わえ、片手にはおたまを持っている姿は仕事着を着ている彼女とはまた違う魅力がある。 今すぐ抱き締めて、熱烈なキスをしたい。 そんな欲望を寸でのところで堪える。嗅覚をくすぐる美味しそうな匂いからして、彼女はシャルナークの帰りを待って料理を作ってくれたのだ。その努力を汲んで上げたかった。 「ただいま」 身体は疲れ切っていて、シャワーも浴びていないため埃っぽい。 (シャワー浴びなきゃ。が汚れる…) 抱き締めてはいけないという理性も、手を伸ばせば届く距離にいる恋人の甘い香りには抗し得なかった。腕の中にすっぽりとおさまる彼女を抱き寄せて、その肩に顔を埋める。髪を結んでいるせいで色っぽいうなじが露にされていて、あまりの誘惑にクラクラした。 「シャル?」 「ごめん。シャワー浴びてないのに」 「何言ってんのー。いいよ、そんなの」 「充電、させて」 「………疲れてるなら横になっていいよ? ごはん、後でもいいし」 彼女の細い指が、シャルナークの頭をよしよしと撫でる。子どものように頭を撫でられる経験など一度もない。他のどの人間にされても不快でしかないだろうに、にされるのは心地良かった。甘酸っぱい気持ちに、胸が締め付けられる。 「大丈夫。ごはん食べるよ。お腹ぺこぺこなんだ」 丁重に身を離して、こつりと額と額を合わせて色素の薄い瞳を覗き込む。 青く澄んだアイスブルーの瞳。ゆっくりと睫毛が上下して、シャルナークを映す。 「充電さえすれば、すぐに元気になるから。だから……」 ――― 2007/07/08
甘えんぼシャルで。 |